2009年2月18日水曜日

ソケリッサ!再び

太陽がさんさんと差し込み
部屋の窓辺にある桜の植木は、
花をちらほら咲かせ始めた。

なんだか桜が花を咲かせる様子は、
人の出産から成長への過程のようである。


実はとても簡単に見える開花の作業は、
硬い木の枝に強烈な気合でつぼみを噴出し、
聞こえない怒涛の産声と共に誕生しているのである。

直径20センチの鉢植えに、複雑に湾曲した
すりこぎ幅の幹が30センチ、
その幹から四方へ10本程の小枝が長短伸びる。

薄ピンクに開いた花は、
根元近くに大小五点、上端に二点。

そして、その輝かしい生誕の幹に、
身体をこすり付けて飼い猫のハナは横切り、
力つよく咲いたばかりの美しい桜の花は、
いとも簡単にポロリと床に落ちる。



さて、今年もソケリッサ!(※)の練習が始まった。

先日1月末、前回出演したメンバーの
おじさん達5人と意気揚々顔を合わせた。

その日は練習初めであったので、
まずは今年の活動予定をきめる。

ソケリッサ!の公演は、昨年、一昨年と2度行なっている、
「昨年の公演はどうでしたか?」改めて聞いてみた。

「紙ふぶきが苦しい。」とメンバーの一人。

昨年の本番、大量の紙ふぶきを撒き散らすシーンがあり、
その中央でおじさん達は歌を歌い、セリフを叫ぶ。

「あれは大変で、前が見えないから、今後はやめましょう。」とのこと。
別のおじさんは「入れ歯が落っこちたのはばれなかったけどな、ハハ。」
「ストーリーのある人情ものなんかどう?」「次は是非大劇場で!」・・
とこんな感じである。

3度目の公演ともなると、それぞれ演出にも意見を出し始めた。
自分のやりたいこと、もちろん単なる思いつきの意見や、
お客さんの観想を受けての意見、皆から様々出て来た。
無口な初回公演の練習を思い出す・・

比べれば今や、おじさん達がひとまわり大きく見えてくる。

土建屋だった、通称”親方”は
「親のいない子供達のいる施設で、
見せるのもいいんじゃねえか・・あと温泉とか。」
いまいちせりふのバランスが取れていない気はするが、
少なくとも前半はすばらしい。

舞台は、今年の夏に東京公演と
大阪公演がやりたいと思っていたが、
多くの人に、見て知ってもらう方法としても路上は良い。

ソケリッサ!に土の匂いは合う。
いずれは必ずやりたかった事である。
路上に会社や、学校や公園他、どこでもやれたらそれは面白い。
おじさん達の意見も「あの公園はいい。」「都庁前の広場は広い。」等、
話は展開、舞台公演はひとまず先に、
年末か来年頭にしようと意見を統一した。

これからはまず春先の路上に向け、練習である。



・・だがここですんなりとは行かない。


実はその次の練習日、集まったのは2人であった。
話し合いをしたメンバー5人のうち3人は、
来れなくなったのである。

まず一人は掃除の仕事を朝5時から毎日することになり、
体力に不安があるので、しばらくは仕事に専念することに。
路上の冬は当然疲労が溜まる。

今回は仕方ない、もちろん健康は第一である。

もう一人は酒を飲んで、酔った状態での練習参加だったので、
これは問題あり、 一度しばらく休んでもらう事に。
前から酒好きで、いつもは終わって飲むのを
楽しみにしていたのだが・・

もう一人は右足の付け根がしびれ、
歩けない状況に・・しばらく療養することに。
その歩けない”トミさん”は現在68才、
練習をいつも楽しみにして、練習期間が開くと、
「次回はいつか?」と連絡をしてくる。常に熱意を持ち、
表現力もすばらしい。

一昨年にはお金をため、路上からアパートに移り、
今は生活保護で生計を立てている。

実はトミさんは、子供の頃ヤギに乗って遊び、
転落して頭を打ち、成人後に後遺症でしびれが現れ、
手術をしたという過去がある。

心配したのだが、検査の結果そこからのしびれではなく、
足の付け根に水がたまったとの事・・

見舞いに行くとちょうどご飯を食べた後で、
魚の缶詰とプラスチックの皿にご飯粒が残っていた。
見回すと同じようなゴミがコンビ二袋につまっている。



あまりバランスが良いと思えない食事を
一人で食べている姿を想像してしまう。


ここ最近はゆっくり歩き公園へ散歩に
行けるまでなったと話していた。
「いやーハハハ、早く復活し、又戻ります。」
路上で折れなかった精神力は、そう簡単に萎れない・・。

出来れば全員続けて次回も邁進したいが問屋は卸さない。


ソケリッサ!は昨年の3月から
しばらく活動をしていなかったものの、
興味を持ち、取材等ときおり
連絡をいただけることはうれしく有り難い。

先日もある劇場関係者が練習見学に見え、
おじさん共話しをする機会があった。

自分「・・ソケリッサ!の始めた頃、
おじさん達は大人しかったのですが、
今では率直に意見を言ってくれたりするように・・

肉体表現をたくさんの人に見せて、
伝えようとする意識が大きくなってきたのかも知れません。」
「・・何のためにソケリッサ!に参加していますか?」

”親方”「うーん、おれは健康のためだ。」

親のいない子供達のため、はどこかへ
しかし確かにその通り、健康は一番大事である。
それが言える事はすばらしい。


苦労して練り上げたもの・・芸術でも常識でも、
それらが完成した瞬間にそれをあっさり破壊してしまう潔さ。
おじさん達と作り上げる芸術は、底知れぬ何かが詰まっている・・
と思ってしまうのである。






続きは次回に・・




ソケリッサは「前進する」といったイメージの造語です。
ホームレス境遇者が、ライトを浴び人前に立ち踊ると
どのような表現をするのか、意識や骨格から何が出てくるのか、
又、一人の表現者として、自分が同じ場所に立つ場合、存在はどうあるのか・・
この思いから始まったこの企画は07年の1月に第一回公演、
08年3月に第二回公演を終えました。

現在ソケリッサ!の運営を手伝っていただける方を募集しています。

アオキ裕キ

問合せ先 ビッグイシュー基金

※宮崎による代理投稿。執筆はアオキ裕キ